離職するのも楽じゃない

現在わたしは無職だ。

長年働いてきた職場が潰れたからだ。

 

 

とうとう閉店、と聞いたとき、内心わたしはしめしめと思った。思った、というかはっきりと口に出してしめしめと言った。

閉店なのだから会社都合だ、しばらくは失業手当を貰いながらだらだらと暮らせるではないか。これもはっきりと口に出して言った。

しめしめと口に出したものがわたしの他に二人おり、他の従業員が不安な表情を浮かべるなか三人だけがにやにやしているといったおかしな状況だった。

 

しかし閉店の時期が近づくにつれ、どうも話がおかしくなってくる。

閉店はするものの同じ場所に新しい店を作るのでその開店を待ってそこで働くことになると言うのだ。

 

この新しい店、というのが幻のように実態のつかめないもので、いつ開店するのか、雇い主は誰なのか、雇用形態はどうなるのか、一切何もわからない。

さらには業種もはっきりとしない。

新しい店に建て替える資金の目処もついていないというから驚きだ。

建て替え資金の目処もついていないのだから、閉店後から開店までの待機期間の給料など出るはずもないだろう。

そんな状態にありながら、ネットで検索してみると架空の新しい店の求人を既に出しているから余計に驚きだ。しかも外国人を募集している。いつ開店するかもわからないのに合格してしまったひとはどうなるのだろう、そのひとも待機するのか?異国の土地で。

 

わからなすぎるにも程があるので情報を聞き出せと店長から社長に電話させてみるもののやっぱり何もわからない。

あげく、ネットの求人はフェイクで出してみただけだ!という謎の答えが返ってきた。誰に対するフェイクだったのかは今でもわかっていない。

 

こんな社長の妄想上の店では当然働けないに決まっているが、社長は我々がそこで働くとなぜか思っている。

このまま妄想上の店員に数えられてしまっては困る。

辞めたい。辞めたいが、どうもこの話だと自己都合にされそうな気がしてならない。

少し前までにやにやしていた三人で相談し、社長への質問状を作成することになった。

 

結果を言うと会社都合にします、という返答ではあったが、質問状を持って行ってくれた店長から、社長がなぜ三人が辞めたいのかわからないと困惑していたと聞き、なぜ辞めないだろうと思うのかわからずにこちらも困惑した。

この、会社都合にするよという返答もいつ覆されるかわかったもんじゃないなと感じ、実際に離職表が届き離職理由を確認するまでまったく気が休まらなかった。

 

 

そんなにやにや期、オロオロ期、イライラ期、ひやひや期を経てやっと今晴れて無職だ。

しかも失業手当が予想よりも多い。貰っていた給料よりも多い。よくわからないがそういうこともあるらしい。

しかし無職になって思うのは、無職というのは意外と忙しいものだということで 憧れの怠惰生活は未だ憧れのままである。